書籍

豊島ミホ「ブルースノウ・ワルツ」

ネタバレ有り? 「大人になる」ということからいかに逃れられないのかということを、この小説は描いているのだと思う。「子ども」というのは「大人」を絶対的なものだと思う人々のことだと思う。ラカン派の言う「知っていると想定される主体」としての大人と…

タカハシマコ『それは私と少女は言った』

ネタバレ注意 同級生の五人の少女の目の前で、一人の美少女(鳥子)が命を断った。少女たちにはそれぞれ、その美少女の死を望んでいた。三年後再会した彼女たちのもとに、死んだ美少女のものと思われるブログのアドレスが届く。 - 美少女の死をいかに自らのも…

『日傘のお兄さん』(豊島ミホ、新潮社文庫『日傘のお兄さん』所収)

ネタバレ注意 王子様がお姫様を助ける話というほど簡単な話ではないし、そもそもお兄さん=王子様とするにはやや宗助の行動には問題があるけれども「不幸なお姫様の前に王子様が現れ、幸せになる」という筋はこの話のメインのラインになっている。ただしその…

『ネムルバカ』(石川数正、リュウコミックス)

ネタバレ有り 『ネムルバカ』の主人公は二人の女子大学生である。彼女たちは同じ寮の同室に住み、生活を共にしている。一年先輩である鯨井ルカはバンド活動を行なっており、後輩の入巣柚実には特別打ち込んでいるものはない。 そんな二人と周囲の人々がおり…

『シトラス』(香魚子、マーガレットコミックス)

ネタバレ有り - 香魚子「シトラス」(マーガレットコミックス) 田舎の小さい町の中学生たちの物語。 『青春が甘酸っぱいなんて嘘 ただ酸っぱくて苦いばかり』(2巻帯より)という言葉が秀逸。 過去の私がいたから今の私がいる、だけど今の私がいることと過去の…

『隣の彼方』(香魚子、マーガレットコミックス)

同じ作者の『さよなら私たち』がよかったのですぐに買いました(感想)。『さよなら私たち』ではSF/ファンタジー色のある2作が好きでしたが、『隣の彼方』は幼なじみの高校生の関係を描いた表題作が特によかったです。絵の透明感、表情の描かれ方もすごく好き…

『平成仮面ライダー英雄伝』(成瀬史弥、カイゼン)

この本は『本が好き!』様から献本していただきました。 ありがとうございます。 - 2000年に放送が開始した「仮面ライダークウガ」から始まった平成仮面ライダーシリーズ12作品に登場するライダー131人(!)が見開き1頁あるいは2頁で紹介されている。各ライダ…

『さよなら私たち』(香魚子、マーガレットコミックス)

香魚子さんの『さよなら私たち』を読んだ。 表題作を含む5本の短編が収録されている。 そのうち表題作「さよなら私たち」と「時をかけるまえに」についての感想をちらっと書きたいとおもう。 以下ネタバレ有り。 ――――― 『時をかけるまで』 作品の舞台は2025…

僕の妹は漢字が読める(かじいたかし、HJ文庫)

ネタバレ注意! - - 漢字という文化が失われ、ひらがなだけの「萌え」を追求した文体が正統派文学となった23世紀に作家を目指す少年が主人公のライトノベル。 義理の妹ふたりと、23世紀の正統派文学の代表作家、そして主人公達がとある理由によりタイムスリ…

最近読んだ本

ニートでブロガーな清少納言を主人公にした「平安」「日常」「百合」四コマ。 とにかく(藤原)定子様にしか目がいかない清少納言と、定子、周りの女房たちのドタバタが面白い。 (表紙と内容は著しく異なっている) とりあえずこれを読めば、古典への興味が湧い…

facebook使いこなし術(根岸智幸、アスキー新書)

書評コミュニティの『本が好き!』に投稿した書評を転用。 - なんとなくユーザー登録はしてみたものの、現実の数少ない友達がほとんどやっていないかあるいは本名で登録していないため(+本書を読んで知ったのだが、メインで使っているGmailのアドレス帳が検…

惡の華(押見修造、講談社コミックス):感想

しばらく更新できません。 なんて言っておきながら、少々時間があるので更新。 明日からは最大で1週間程度、忙しい上にネットのできないところに行くので、おそらく更新できません。 - kouさんがブログで紹介されていた「惡の華」を読んだので、思ったことな…

KAGEROU(齋藤智裕、ポプラ社)

ネタバレ注意 - ネタバレ注意 私たちは「陽炎」を見ることができるのか。 陽炎とは 陽炎(かげろう)(shimmer)とは、局所的に密度の異なる大気が混ざり合うことで光が屈折し、起こる現象。よく晴れて日射が強く、かつ風があまり強くない日に、道路のアスファ…

ヘヴン(川上未映子、講談社)

残酷なイジメのシーンも印象に残るけど、それ以上にいじめられているふたり、主人公とコジマの間にあるどう仕様も無い溝が悲しかった。 以下ネタバレ注意 - 意味が無いのならば意味があるかのように原因を装ってしまえばいい。 そうすれば理不尽である物事も…

勝手にふるえてろ(綿矢りさ)

あらすじなどはこちらを参照してください(冒頭の立ち読みができます) 以下ネタバレ注意 - 最初に一読したとき、非常に残念だと思ったし、ツイッターにもそうつぶやいてしまった。 残念というのは内容がつまらなかったということではなくて、主人公ヨシカの選…

僕のエア(滝本竜彦、文藝春秋)

主人公は24歳のフリーター。 10歳の時「婚約」の口約束をした女性から結婚式の案内状が届いたところからストーリーがはじまる。 「NHKにようこそ」や「超人計画」を彷彿とさせる勢いやエピソード、表現が懐かしい。 2004年初出の作品。 - おそらく僕の人生に…

バニラ A sweet partner(アサウラ、スーパーダッシュ文庫)

『バニラ A sweet partner』(著:アサウラ、スーパーダッシュ文庫)を読んだ。 - 〜あらすじ〜 高校生の海棠ケイと梔ナオは偶然手に入れた狙撃銃で狙撃事件を繰り返し起こす。 やがて警察にマークされた二人はそのことに気がつかず事件を起こし、追跡から逃れ…

LOVE MY LIFE(やまじえびね、祥伝社)

わたしの名前はいちこ わたしの恋人はエリー ふたりとも女性です (帯より引用) - 英語の学校に通う18歳のいちこは大学生のエリーと付き合っている。 彼女の父親はゲイで、亡くなった母親もゲイ(レズビアン)だ。 そしてゲイの友達がいる。 絵も展開もとてもシ…

「ゴジラとアメリカの半世紀」

「ゴジラとアメリカの半世紀」(ウィリアム・M・ツツイ、中公叢書)を読んでいる。 思い出してみると、僕は小学生のときには月に一度はゴジラかガメラの映画を見ていた。 父が特撮映画が好きだったこともあって、ほとんどの作品のビデオ(TVやwowowで放送したの…

ひらり、Vol.2(新書館)

新書館のピュア百合アンソロジー「ひらり、」のVol.2。 Vol,1の感想はこちら ハズレがない、という消極的な褒め言葉ではなく、アタリしか無い、といったほうがいいかも知れない。 それくらい個人的にはどストライクな作品ばかりが今回も揃っていた。 どの作…

私の男(桜庭一樹、文春文庫)

ネタバレ注意 - - 禁忌はそれを共有しない人間にとってはなんの制止にもならない。 意味があるとすれば、「自分は属さないが、それを禁止している空間がある」ということを認識するだけだろう。 例えば、ある動物の肉を食べないというのは、はたから見れば滑…

君が僕を4 将来なにになりたい?(中里十、ガガガ文庫)

『君が僕を』(著:中里十、ガガガ文庫)の第四巻(最終巻)を読んだ。 メモ的にひとまず感想を書いてみました。 以下ネタバレ注意 - 前巻までの感想はこちら。 - 最終巻であるこの巻では、エピローグの前の数ページで、前巻までの構造にさらに一枚の上乗せ、つ…

女はポルノを読む−女性の性欲とフェミニズム(守如子、青土社ライブラリー)

『本書は、「ポルノグラフィを楽しむ」という経験を男性のものとして特殊視するのではなく、女性も男性もポルノグラフィを楽しむことがあるということを前提にしたうえで、改めてフェミニズムが批判してきたポルノグラフィ問題に向きあおうとする試みである…

ライトノベル文学論(榎本秋、NTT出版)

『ライトノベル文学論』(著:榎本秋、NTT出版)を読んだ。 文学論というよりは、ライトノベル入門というような印象が強い。 新城カズマ氏の『ライトノベル「超」入門』の後に読んだけど、正直こちらのほうが入門書としてはわかりやすい気がする。(読んだ順や…

蛇にピアス(金原ひとみ、集英社文庫)

『蛇にピアス』(著:金原ひとみ、集英社)を読んだ。 今さら感がありますが、むしろ今だからこそ読んでみようかと思って読みました。 かなり面白かったので、感想を書きます。 ネタバレ注意です。 - 全編に渡って、身体的に痛い描写が多い。 主人公のルイは、…

塔の町、あたしたちの街1(扇智史、ファミ通文庫)

『塔の町、あたしたちの街1』(著:扇智史、ファミ通文庫)を読んだ。 <二巻未読のため、感想は一巻読了時のものです。> なんだか全体的に懐かしい感じがする。 発行が2007年なんだけど、2000年前後と言われても違和感がない。 架空の街を舞台にした、いわ…

あかね色シンフォニア(瑞智士記、一迅社文庫)

『あかね色シンフォニア』(著:瑞智士記、一迅社文庫)を読んだ。 ド直球な百合ライトノベル。 完全に「百合」 私立の女子校に入った主人公が、楽器がなくても音楽ができるということに引かれてDTM部(電子音楽研究部)に入部して……。 という話。 まず登場する…

少女セクト(玄鉄絢、コアマガジン)

『少女セクト』(著:玄鉄絢、コアマガジン)を読んだ。 先日まで新品が手に入らない状態だったのだけれど、新しく刷られたらしく、amazonで購入。 男は(ほぼ)一切登場しない、しかし全話でセックスの描写がある(18禁ではないよ)。 このマンガをどう分類すれば…

神話が考える ネットワーク社会の文化論(福島亮大、青土社)

『神話が考える ネットワーク社会の文化論』(著:福島亮大、青土社)を読んだ。 図書館で借りた本で、何人か待っている人がいたのですでに返してしまったため、手元にあるメモをもとに感想を書く。 - タイトルにある「神話」とは、「情報社会における情報処理…

姫百合たちの放課後(森奈津子、ハヤカワ文庫JA)

『姫百合たちの放課後』(著:森奈津子、ハヤカワ文庫JA)を読んだ。 表紙のカワイイ絵から想像される女の子の淡い話、ではまるでない。 (あとがきで著者が「吉屋信子的世界を期待して本書をご購入いただいた方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません」と書…