女はポルノを読む−女性の性欲とフェミニズム(守如子、青土社ライブラリー)

『本書は、「ポルノグラフィを楽しむ」という経験を男性のものとして特殊視するのではなく、女性も男性もポルノグラフィを楽しむことがあるということを前提にしたうえで、改めてフェミニズムが批判してきたポルノグラフィ問題に向きあおうとする試みである』(19ページ)

『ポルノ』あるいは『エロ本』などの言葉を聞いたときに想像するイメージは、男性向けのの写真週刊誌であったり、あるいは漫画雑誌であることが多いのではないか。
一般に、ポルノグラフィは男性が読むものというイメージが支配的な気がするし、女性向けのポルノを偶然に目撃する機会は男性向けのそれに比して高くはないように思う。
しかし、最近では「腐女子」と呼ばれる「ヤオイ」「ボーイズラブ」コミックや小説を読む女性がいて、彼女たちの読む作品の少なくないものが性的な描写を含んでいるということは、一般にどれほど知られているかはわからないが、少なくともネット上では常識的なものになっているように思う。
「ポルノグラフィ」というよりは、「ボーイズラブ」というジャンルに興味があり、以前『欲望のコード―マンガに見るセクシュアリティの男女差』(堀あきこ、臨川書店、2009)等を読み、①フェミニズムとポルノグラフィ②女性の読むポルノグラフィの種類 という視点にぶつかったので、興味を持ち、本書を読むことにした。
(『欲望のコード』と本書の視点の違いについて著者は、『「女」という立場に注目することに意義があると考えている(P23)』のであって、『男性/女性に配分されてきた物事のうちで、女性側に配分されてきたものの価値を積極的に認めることに意義があると考えているわけではない(同)』とし、これが女性向けポルノコミックに表れるセクシャリティ観と女性向けポルノコミックに表れるそれが異なる価値観によっているとする堀氏との違いであるとしている)

本書はまず、フェミニズムのポルノグラフィ批判に対してポルノグラフィの具体的分析の必要性を訴え(第1章)、次いで女性向けポルノグラフィの歴史を振り返る(第2章)。
第3章では読者像に注目し、「コミックAmour」(レディコミ)「コミックJune」(ハードBL)の読者アンケートをもとに読者の性別・年齢・職業をカウントし、また感想を分析することでどういった作品、表現などがそれぞれ求められているのかなどを明らかにしている。
第4章は、心理描写や人物の見せ方、読者の読み方などを女性向けポルノと男性向けポルノを比較を通じてあきらかにし、第5章では女性向けポルノのほとんどがコミックであることの理由に言及する。
第6章では前章までの議論を踏まえた上で(フェミニズムが)どうポルノグラフィを考えるかが述べられている。

「良くないように思える」という出発点は、問題をきちんと考えることにあまり繋がらない。筆者が「はじめに」や「第1章」あるいは「第6章」でも繰り返し述べている通り、対象を詳細に検討するということをしなければ、見落としてしまうものは多い。
(「第3章」の読者アンケートの感想を見ても、読みは統一されているわけではなく、様々であることがわかる)
自分があまり触れたくない問題や、感情的に嫌だと思うことに対して、一面的な決め付けをしてそれを批判するということは思考停止でしかなく、その対象にある豊かさや可能性(筆者はポルノで描かれる攻め/受けは男性=攻め/女性=受けに固定されておらず、特にハードBLという性別・社会的関係をも無化する表現を『既存のジェンダー秩序を最も撹乱している』と述べている(P224))を見えなくしてしまう。

やや趣旨からずれるかもしれないが『私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る(ヴォルテールwikipedia)。』という言葉を引用したい。
男女/女男の平等、女性の権利保護は重要だし、私たちはそれを達成しなければいけないだろう。
しかしそれが達成されるには、冷静な議論がなされなくてはいけない。
分かりやすさは必要だけれど、一方で詳細な、本書のような細やかな視点が必要になる。
そしてそこで発見されたものが、再度大きな議論として本来目指していたものの形成に大きく影響を与えるというのがあるべき姿ではないだろうか。
特にポルノグラフィという、公の場ではなかなか議論しにくい問題ではあるが、だからこそ詳しく見ていくことが重要なように思う。

非常に勉強になる一冊だった。

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なお、この本は「本が好き!」(別ウィンドウで表示)様に頂きました。

女はポルノを読む―女性の性欲とフェミニズム (青弓社ライブラリー)

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