小説

豊島ミホ「ブルースノウ・ワルツ」

ネタバレ有り? 「大人になる」ということからいかに逃れられないのかということを、この小説は描いているのだと思う。「子ども」というのは「大人」を絶対的なものだと思う人々のことだと思う。ラカン派の言う「知っていると想定される主体」としての大人と…

『日傘のお兄さん』(豊島ミホ、新潮社文庫『日傘のお兄さん』所収)

ネタバレ注意 王子様がお姫様を助ける話というほど簡単な話ではないし、そもそもお兄さん=王子様とするにはやや宗助の行動には問題があるけれども「不幸なお姫様の前に王子様が現れ、幸せになる」という筋はこの話のメインのラインになっている。ただしその…

父と娘の正しい関係

どうやら最近父と娘ものが流行っているらしいということを小耳に挟む。 考えてみると弟が『マルモのおきて』を見ていたし、母が『うさぎドロップ』を集め始めた(というか最終巻を買わされた……)。 ということで最近読んだ、父と娘の関係を描いたマンガと小説…

僕の妹は漢字が読める(かじいたかし、HJ文庫)

ネタバレ注意! - - 漢字という文化が失われ、ひらがなだけの「萌え」を追求した文体が正統派文学となった23世紀に作家を目指す少年が主人公のライトノベル。 義理の妹ふたりと、23世紀の正統派文学の代表作家、そして主人公達がとある理由によりタイムスリ…

KAGEROU(齋藤智裕、ポプラ社)

ネタバレ注意 - ネタバレ注意 私たちは「陽炎」を見ることができるのか。 陽炎とは 陽炎(かげろう)(shimmer)とは、局所的に密度の異なる大気が混ざり合うことで光が屈折し、起こる現象。よく晴れて日射が強く、かつ風があまり強くない日に、道路のアスファ…

ヘヴン(川上未映子、講談社)

残酷なイジメのシーンも印象に残るけど、それ以上にいじめられているふたり、主人公とコジマの間にあるどう仕様も無い溝が悲しかった。 以下ネタバレ注意 - 意味が無いのならば意味があるかのように原因を装ってしまえばいい。 そうすれば理不尽である物事も…

勝手にふるえてろ(綿矢りさ)

あらすじなどはこちらを参照してください(冒頭の立ち読みができます) 以下ネタバレ注意 - 最初に一読したとき、非常に残念だと思ったし、ツイッターにもそうつぶやいてしまった。 残念というのは内容がつまらなかったということではなくて、主人公ヨシカの選…

僕のエア(滝本竜彦、文藝春秋)

主人公は24歳のフリーター。 10歳の時「婚約」の口約束をした女性から結婚式の案内状が届いたところからストーリーがはじまる。 「NHKにようこそ」や「超人計画」を彷彿とさせる勢いやエピソード、表現が懐かしい。 2004年初出の作品。 - おそらく僕の人生に…

私の男(桜庭一樹、文春文庫)

ネタバレ注意 - - 禁忌はそれを共有しない人間にとってはなんの制止にもならない。 意味があるとすれば、「自分は属さないが、それを禁止している空間がある」ということを認識するだけだろう。 例えば、ある動物の肉を食べないというのは、はたから見れば滑…

君が僕を4 将来なにになりたい?(中里十、ガガガ文庫)

『君が僕を』(著:中里十、ガガガ文庫)の第四巻(最終巻)を読んだ。 メモ的にひとまず感想を書いてみました。 以下ネタバレ注意 - 前巻までの感想はこちら。 - 最終巻であるこの巻では、エピローグの前の数ページで、前巻までの構造にさらに一枚の上乗せ、つ…

蛇にピアス(金原ひとみ、集英社文庫)

『蛇にピアス』(著:金原ひとみ、集英社)を読んだ。 今さら感がありますが、むしろ今だからこそ読んでみようかと思って読みました。 かなり面白かったので、感想を書きます。 ネタバレ注意です。 - 全編に渡って、身体的に痛い描写が多い。 主人公のルイは、…

塔の町、あたしたちの街1(扇智史、ファミ通文庫)

『塔の町、あたしたちの街1』(著:扇智史、ファミ通文庫)を読んだ。 <二巻未読のため、感想は一巻読了時のものです。> なんだか全体的に懐かしい感じがする。 発行が2007年なんだけど、2000年前後と言われても違和感がない。 架空の街を舞台にした、いわ…

あかね色シンフォニア(瑞智士記、一迅社文庫)

『あかね色シンフォニア』(著:瑞智士記、一迅社文庫)を読んだ。 ド直球な百合ライトノベル。 完全に「百合」 私立の女子校に入った主人公が、楽器がなくても音楽ができるということに引かれてDTM部(電子音楽研究部)に入部して……。 という話。 まず登場する…

姫百合たちの放課後(森奈津子、ハヤカワ文庫JA)

『姫百合たちの放課後』(著:森奈津子、ハヤカワ文庫JA)を読んだ。 表紙のカワイイ絵から想像される女の子の淡い話、ではまるでない。 (あとがきで著者が「吉屋信子的世界を期待して本書をご購入いただいた方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません」と書…

ハニィ、空が灼けているよ。(豊島ミホ、新潮社文庫「青空チェリー」収録)―セカイ系とリアルな青年像

『ハニィ、空が灼けているよ。』はセカイ系的な作品だ。 曖昧で主題に対してあまりにも過剰な、日本が巻き込まれる戦争という世界設定。 そしてその世界設定は背景に書かれるのは、社会と自分の距離という極めて狭いテーマにすぎない。 首都から疎開した大学…

ひらり、(新書館)

『ひらり、』(アンソロジー、新書館)を読んだ。 一ヶ月以上前から気になっていた「ピュア百合アンソロジー」 マンガだけではなく、小説も含まれている。 不勉強で、新書館と言う出版社をしらなかったのと、知っている作家さんがいなかったのであまり期待して…

君が僕を 1〜3(中里十、ガガガ文庫)

『君が僕を』(著:中里十、ガガガ文庫)の1〜3を読んだ。 (4巻の感想はこちら) 『どろぼうの名人』『いたいけな主人』の中里十氏の作品。 重い。 文章も内容も、別にそれほど暗いわけでも重いわけでもないにも関わらず、どうしようもなく重い読後感がある。…

いたいけな主人(中里十、ガガガ文庫)

『いたいけな主人』(著:中里十、ガガガ文庫)を読んだ。 一昨日感想を書いた『どろぼうの名人』のアナザーストーリー。 が、『どろぼうの名人』のような幻想的な雰囲気を予想して読んだら見事に裏切られた。 『どろぼうの名人』の雰囲気が、登場人物以外の物…

どろぼうの名人(中里十、ガガガ文庫)

『どろぼうの名人』(著:中里十、ガガガ文庫)を読んだ。 以前、2ちゃんねるのスレッドでお薦めの百合小説として紹介されていて気になっていたもの。 非常に不思議な作品だった。 イラスト、文体、アイテム、設定の組み合わせが不思議な世界を作り出している…

初恋素描帖(豊島ミホ、ダ・ヴィンチブックス)……相関図作ってみました

『初恋素描帖』(著:豊島ミホ、ダ・ヴィンチブックス)を読んだ。 ある中学の2年2組35人の内、20人の短いストーリー。 一人10ページ弱で、タイトル通り恋愛に絡んだようなエピソードが描かれている。 2010年2月号の『papyrus』で、豊島さんがこ…

エバーグリーン(豊島ミホ、双葉文庫)

『エバーグリーン』(著:豊島ミホ、双葉文庫)を読んだ。 アヤコ(女の子)のための物語という印象が大きい。 少女漫画、小説的とでも言うのだろうか。 中学三年生のシンは、学校祭を目前に組んでいたバンドが解散してしまう。 その話をたまたま聞いていたアヤ…

僕は友達が少ない 3(平坂読、MF文庫J)

『僕は友達が少ない③』(著:平坂読、MF文庫J)を読んだ。 今巻は夏休みの風景。 普通に部室に集まったり、プールに行ってみたり、星奈の別荘で合宿したり、祭りに行ったり。 テンプレなマンガ的夏休み。 他にも、前巻からの続きで、小鷹と小鳩が星奈の家に挨…

僕は友達が少ない 2(平坂読、MF文庫J)

『僕は友達が少ない 2』(著:平坂読、MF文庫J)を読んだ。 (1巻の感想はこちら) 一巻の冒頭にだけ登場したマリアと理科が本格的に登場し、小鷹の妹・小鳩も入部。 あいかわらず小鷹は友達がいないとか言いながら、もはやリア充以上。 べつにいいじゃん、友達…

陽の子雨の子(豊島ミホ、幻冬舎文庫)

帯に書かれた「青春の輝きと残酷さを刻む 胸に染みる物語」という文句が絶妙だ。 この物語にはまさに輝きと、そして残酷さがある。ストーリーは男子中学に通う14歳の少年、夕陽が偶然に24歳の雪枝と出会うことから始まる。 連絡先を交換した彼らは、何度か会…

フリーランチの時代(小川一水、ハヤカワ文庫)

『フリーランチの時代』(著:小川一水、ハヤカワ文庫)を読んだ。 『老ヴォールの惑星』に続き、小川一水のSF小説。 全部で5編の短編集。 表題作の「フリーランチ」という言葉に、『FREE』などで紹介されたドリンク一杯を頼むとご飯食べ放題のシステムを想像…

老ヴォールの惑星(小川一水、ハヤカワ文庫)

『老ヴォールの惑星』(著:小川一水、ハヤカワ文庫)を読んだ。 若手のSF作家による4編のSF短編集。 あまり新しい日本のSF小説を読む機会がなかったが、友人に薦められて読んだらかなり面白かった。 同じ著者の短編集『フリーランチの時代』(同)も読んだので…

僕は友達が少ない(平坂読、MF文庫J)

『僕は友達が少ない』(著:平坂読、MF文庫文庫J)を読んだ。 ツイッターで面白いライトノベルを募集したところ、教えてもらった作品。 まえからなんとなく名前は聞いたことがあったけど、たぶんこういう機会がなければ読まなかっただろう。 めんどくさいので…

マジック・キングダムで落ちぶれて

『マジック・キングダムで落ちぶれて』(著:コリイ・ドクトロウ、ハヤカワ文庫)を読んだ。 『FREE』や『ツイッターノミクス』で取り上げられていた「ウッフィー」という概念はこの本が元ネタ。 勝手に(というか読み落としで)著者は老人だと思っていたが、71…

球体の蛇

道尾秀介の『球体の蛇』を読んだ。1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から…

リテイク・シックスティーン

豊島ミホの『リテイク・シックスティーン』を読んだ。高校に入ってすぐ、主人公の沙織は同級生の孝子に話しかけられる。孝子は自分は未来から来たと言う。彼女は失敗した青春をやり直そうと、沙織と、お調子者の大海くん、真面目な村山くんを巻き込んで青春…