マジック・キングダムで落ちぶれて

『マジック・キングダムで落ちぶれて』(著:コリイ・ドクトロウ、ハヤカワ文庫)を読んだ。
『FREE』や『ツイッターノミクス』で取り上げられていた「ウッフィー」という概念はこの本が元ネタ。
勝手に(というか読み落としで)著者は老人だと思っていたが、71年生まれだった。
技術の進歩によって(意識のバックアップとクローン技術によって)不老不死、エネルギー問題の解決が達成された未来、ディズニーランドでスタッフとして働く主人公が、園内のアトラクションをめぐる争いに巻き込まれる、という内容。
あとがきでも触れられていたが(解説は冬樹蛉氏)、不老不死や宇宙での生活などのテクノロジーの壮大さに比して、ストーリーは遊園地内のアトラクションをめぐる争いという小さなものを焦点にしている。
超低コストの不老不死・クローンや、ウッフィーという他人の評価によって現像する仮想貨幣、そしてせせこましい争いは、いろいろと示唆的で面白い。
あるいはディズニーランドという、日本だと時代の区切り(83年の東京ディズニーランドの開園は虚構の時代の始まりの象徴とされる)として取り上げられるテーマパークが舞台になっているところも。
ポストモダン世界の島宇宙的コミュニティとか、インターネットにおける個人の価値という問題など。
そういう意味ではいろいろと現実の問題と結びつけて想像力がかきたてられる。
ただ、登場人物ににいまいち魅力が感じられなかった。
主人公は自己中心的で、恋人もよくわからない。
主人公の親友もまたいまいちわからない。
彼らがなにを考えているのか、どういう行動をするのかが、ストーリーとして面白いレベルではなく、単純に人として理解できないというレベルでずれているように思えた。
この作品の世界は、現実というよりもネット的な世界だと思うのだけれど、だとすると進歩の形はより空気の読み合いになるような気がするんだけど、そういう雰囲気がない。
それは著者と僕の考え方の違いだろう。
純粋なネット世界でもないから、当然にリアルの人間関係に必要なコミュニケーションの衝突もあるだろうし。
もう少し話に魅力があればと思ったけど、一読の価値アリだと想います。