僕のエア(滝本竜彦、文藝春秋)

主人公は24歳のフリーター。
10歳の時「婚約」の口約束をした女性から結婚式の案内状が届いたところからストーリーがはじまる。
NHKにようこそ」や「超人計画」を彷彿とさせる勢いやエピソード、表現が懐かしい。
2004年初出の作品。

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おそらく僕の人生に現時点で一番影響を与えているのは『NHKにようこそ』だ。
05年の夏、この本が角川文庫の夏の100冊に選ばれていなければ、僕はたぶん今みたいにライトノベルとか漫画とかを読んでいなかった。
アニメ=ロボットモノというイメージからの脱却を手伝って(くれてしまった)のも『NHKにようこそ』なら、「萌え」という言葉で集約されていた文化に興味を持ったのも『NHKにようこそ』のおかげ(せい)だった。
『僕のエア』の雑誌への連載は04年であり、当時の僕はまだ10代の高校生で、『NHKにようこそ』も読んでいなかった。
それから6年経った今、たまたま僕は主人公の田中翔と同い年だ。
また、『NHKにようこそ』の主人公と僕の苗字は同じ「佐藤」。
縁があるのかどうかは知らないけれど、変にリンクしている(と自分では思っている)。
『僕のエア』のストーリーは、『NHKにようこそ』に似ている。
岬ちゃんという本物の女の子のかわりに「エア」が来て、先輩が病んでいないという感じ。
もちろん全く同じでもなければ、印象もそれなりに違うのだけれど、ある種のパラレルワールドのようなだ。
主人公のどうしようもなさ、ヘタレさ、いい加減さ、全てに同調してしまいたくなる。
最悪の状態、でもそれほど居心地は悪そうではなくて、ある意味であらゆる可能性が見えているように見える場所。
結局ここ数年間、自分がいたかったのは佐藤くんのアパートであり(そして田中翔のアパートであり)、そしてその周りにいる人たちの所だったんじゃないかなぁ、なんて感慨深い。
「エア」が何であるとか、物語の結末がどうとか、そういうことではなく、この物語の魅力は主人公とエアを含めた登場人物(あるいはキャラクタ)が作る空間、空気の絶妙な居心地のよさと、細部にあるマニアックで役に立ちそうにもない知識の集合だ。
まさに「僕(田中翔)のエア(=Air)」が主であり魅力だ。
思い入れがありすぎて、かなり補正して読んでいる気がするけど、でもあの頃「NHKにようこそ」にはまった人なら楽しめる、はず。