『あの頃』は『過去』には存在しない
「あの頃はよかった」の『あの頃』とは、未だかつて一度も訪れたことの無い時間と空間だ。
過去は過去になった段階で、すでに僕たちの中でフィクションになる。
ある出来事が起こったという事実は確認ができても、そこに付随するすべての情報が、それより未来に収集されることはない。
ある情報は後付けされ、ある情報は忘れ去られ、都合のかたちに加工されるのだ。
だから仮に時間が逆回転して、今の自分のままその状況にたったとしても、それは『あの頃』とは別の空間に立っていることになる。
つまり、「あの頃に戻りたい」と、「過去に戻りたい」は全くの別物なのだ。
そして、もし今の意識を伴ったまま、時間を遡ることができたとするならば、それは厳密には過去に戻っていないことになる。
現在になる過去には、僕はそれ以降の知識を持っていなかったからだ。
しかしそれは『あの頃』とも違う。
では、現在の意識を伴ったままの時間逆行の行き着く先はどこなのか?
そこには、僕が一分前にひっくり返したプリンがまだひっくり返らずに残っている。
問題は、今の意識を持っていないと、結局なんどさかのぼってもプリンはひっくり返ってしまうだけれど、意識を伴っていると、過去でもフィクションでもない世界にぶっ飛んでしまうことだ。
いや、それ以前に時間逆行ができないことだけれど。
ていうかプリン食いたいんだけど。